vol.4 川中大輔・鈴木陵(2)


こんにちは。
シチズンシップ共育企画・事業コーディネーターの鈴木です。

前回に引き続き、当会代表の川中と鈴木の対談。
今回は、2人がワークショップに望むにあたって大切にしていることや、
今後もってみたい場について語ります。

8月3日〜4日に実施された上級編のテーマ「ありかた」にもリンクする内容です。
お楽しみください。


素の自分である、ということ


鈴木:川中さんが、ワークショップをやる上で大切にしていることなどはありますか?
川中:僕が大切にしているのはまず「ライブ」であるということですね。
鈴木:ライブ、ですか。
川中:ワークショップをやっていて、プログラムを捨てる瞬間が来たときに「今、すごくいい場だなぁ」と感じるんです。プログラムを変えることが絶対にいいわけではないけど、参加者がいることによってその場が動いているということでライブだなと感じますね。
鈴木:なるほど。
川中:あと大切にしている事は「プログラムデザイン」という考え方ですね。
鈴木:それは本当に大切にされているなぁと感じます。
川中:面白いんですよね。事前にプログラムを組むとき、もし自分が参加者だったらここのワークでこういう気持ちになるだろう、と想像するわけです。でも、参加者からはまた違う反応が起こるから、その場でプログラムを変えるんですよ。その場の参加者と私の関係性によっては、参加者と一緒に考える時もあるし、自分が考えて提案する時もある。流れなんですよ。「フロー」という言葉をすごく意識していますね。



(川中・ワークショップ中)


鈴木:フロー。
川中:そう。ジョセフ・B・コーネル『ネイチャーゲーム1』(柏書房、2000年)の中に「フローラーニング」という言葉があるんですが、その言葉にハッとさせられたんです。フローラーニングを訳せば「流れのある学び」となりますね。そこから考えると、参加者が「どうしていきなりこういうワークをやるんだろう」「どうして今この議論してるんだろう」とか、「さっきまでの流れはどこにいったんだ」という違和感を持ったり、「さて」の一言で流れががらっと変わってしまう、みたいなことはしたくないと思っています。そういうプログラムの「流れ」はすごく意識をしていますね。
鈴木:そう考えると、学校の中にそういう「流れ」は見えにくいですね。
川中:そうですねぇ。生徒が「もうちょっと学びたい」と思っても、時間が来たら授業は終わって、学べないし、生徒が気になることをどんどん聞いていって、その流れに沿ってしまうと、時に授業が脱線してしまうので先生方は困りますね。担当する先生にもよるけど、学び手がどう思っているとか、とかどういう気持ちでそこに座ってるか、にあまり重きが置かれていないと感じるなぁ。最近、「非構成系」と言われるワークショップが話題に上がったりするけれど、やっぱりそういったワークショップも大きな意味ではプログラムという考えかたで僕は捉えているところもありますね。




川中:ぱーちゃんは最近、シチズンシップ共育企画やそれ以外でもワークショップをやったりしているけど、どういったものを大切にしているのかな?
鈴木:これはまだ修行中、という意味も含めてですが「嘘をつかない」ということでしょうか。
川中:ほぉ、嘘をつかない。
鈴木:できるだけ、素の自分をそこに置くというイメージです。
川中:それは、自分自身に対して嘘をつかないということ?
鈴木:自分に対して、もそうですし、状況に応じて使い分けなのかも知れませんが、参加者に対しても、です。例えば、自分が何か質問された時とか、場が混乱してしまっている時に、本当はすごく焦っていたり自分も混乱しているのに、それを大丈夫なふりをして進めることはなるべくしたくないなと思っています。
川中:なるほど。
鈴木:ですが、それだけではないような気もします。例えば今日のワークショップ(岐阜県立森林文化アカデミーでの授業:Vol.3参照)のテーマは「コミュニティデザインからソーシャルデザインへ」でしたが、正直なところ、自分自身は社会にどう働きかけているのか?というとまだまだ途上だと感じているんです。でも、自分がファシリとしてその場に立つなら、今自分の考えていることや思いを、混乱を招かない程度にうまく活かしながらやりたいなと。そういった迷える自分と、ファシリとして立つ自分とのバランスを大切にしたい、というか。表現が難しいです。(笑)
川中:「ファシリとして立つ」といっても、完全に自分の迷える気持ちに蓋をして、鎧を身に着けて場にやってくるという感じではないと。
鈴木:そう。それでは自分がやる意味がないと思っていて。じゃあ鈴木がやる意味って何だ、という話ですが。(笑)とはいえ、その部分は最近自分でプログラムを組む機会が多いので、その度に考えますね。



(鈴木・ワークショップ中)


川中:今の話を聞いていると、ぱーちゃんは「誠実である」という感じがしますね。であるなら、参加者を信頼して、うまくいっしょに場を作っていこうというマインドさえあればいいと僕は思います。ぱーちゃんはそうした参加者との関わりかたがうまいほうだと思いますが。
鈴木:その辺りは、これまで何度かファシリとして場に立つ機会を重ねる毎に、少しずつですが見えてきているような気がします。その中で、自分のスタイルを見つけられたらと思っています。
川中:その意味では、ぱーちゃんと僕とではプログラムを組むときも着眼点が少し異なっています。僕だったらスルーしてしまうところにこだわったりしますし。(笑)そういう意味では、今後も一緒にコンビを組んでファシリができるといいなと思っています。


なぜ、ワークショップなのか?


川中:さて、今ぱーちゃんは教育ファシリなどのワークショップなどに関わってくれていますが、ぱーちゃんはワークショップの何に惹かれているんでしょう?前回の対談できっかけは開発教育だ、という話がありましたが、それ以外に何かあれば。
鈴木:今の自分の思い、で言うと「コミュニケーションのもったいない、を解消したい」という気持ちがあるのかも知れません。
川中:ほぉ〜、「コミュニケーションのもったいない」。
鈴木:少し意見が食い違ったりしたときに、ちょっとコミュニケーションのとり方を変えたら伝わるのに、とかいう部分ですね。
川中:あぁ、なるほどなるほど。
鈴木:その結果としてすごい成果が出るかどうかは分からないですが、そのためのコミュニケーションの下地を作っておくというか。
川中:どんな場面で特に「もったいない」を解消したいと感じるんでしょうか?
鈴木:今日、授業で扱ったテーマに近いですが、社会や自分の周囲に対する自分の中の問題意識を見つけたり、深めたり、それが自分の中に腑に落ちるような場面でしょうか。「自分の腑に落ちる」ことなく、今の社会はこうなっていて、こんな人が困っていて、という話を聞いても「ふーん」としかならないと思うんです。そういう時に「もったいない」を感じます。自分に引き寄せて考えられるかどうか、によって大きく変わってくると思うんです。
川中:そうやって自分に引き寄せていくために影響を与えあうようなコミュニケーションを他者と体験するには、単にお互いに仲良くなったり、知り合ったりするところから一歩踏み込んだ関係をつくっていくことが大事でしょうね。より良い社会について一緒に考えあうといったふうに。
鈴木:そうですねぇ。両方必要かな、と思っていて特に後者の大切だと感じている、というところでしょうか。


問題意識に、火がつく瞬間



川中:これまでの話を踏まえると、ぱーちゃんはこれからどういう場をつくっていきたいですか?
鈴木:そうですね。最近進行を担当した、美作大学での授業「ボランティア論」のような場をもてたら、と思います。この授業は「ボランティア活動に求められる4つのスキル」を学んだ後、「自分ならどんなボランティア活動をするか?」というテーマについて考えました。僕は2日間の集中全8講義のうち1日目の2コマを担当したんですが、こんな風に、自分の関心に気づいていったりする場面を持てたらと思っています。実は2日目の授業は事情で立ち会えなかったので、なおさら持ちたいと思いますね。(笑)
川中:シチズンシップ共育企画が主催している事業の一つに、学生団体合同研修「ユースナレッジマーケット」がありますが、学生対象というところで同じでも、大学の講義とそうした研修では大きな違いがあります。ユースナレッジマーケットに参加してくる学生たちはすでに問題意識があるから、あとはカタチにするだけ。そのための支援をすればいいということになります。ですが、一方でぱーちゃんの言ってくれたような大学の講義では、問題意識に火がつく瞬間を扱うんですよね。前にも言いましたが、自分の中の問題意識に気づくにくい構造が社会に出来上がってしまっていて、火がつきにくくなっているからねぇ。
鈴木:そうなんです。だからこそ、かもしれません。
川中:それを突き動かすのは大変だけど、すごく楽しい。やっぱり美作大学の2日目の「自分ならどんな活動をするか?」を考えていたあの空間とかは、あぁこれはすごくいい場になっているなと思いましたね。1日目はワークに集中できず、ざわざわしていた学生さんたちも、シーンとなって、真剣な空気の中でじっくり自分と向き合っていましたから。
鈴木:あの授業の1日目、実はとっても難しいなぁと感じていて。だからこそ2日目にその場にいたかったですね。同じような光景を見たいなぁと思います。
川中:ちょっとした軽い気持ちで履修して授業に来たんだけど、色々な体験をする中で「あぁ自分はこんなことに関心があったんだ!」と思って動き出す学生が出てくるようなことがあれば本当に素敵だと思います。変化の胎動がきこえてくる授業、いいですねぇ。



美作大学「ボランティア論」授業風景)


鈴木:そうですね。
川中:そういう意味では、少し前に「なぜワークショップなのか?」という問いについて考えたけれど、僕の場合は何のためかというとやはり「民主主義」なんです。みんなの社会なんだから、嫌だと思うところがあるなら、みんなで変えていったらいい。変えてみて、ちょっと違うなら修正していけばいい。もちろんこれは理想だけど、それを追い求めることが民主主義だと思うしね。諦めた瞬間に、もう誰かにお任せになってしまうでしょ。それで幸せだったらいいけど、やっぱり不満が出るわけで。それを何とかするための動きが起こっていく場がとっても面白い。

鈴木:では川中さんは、今後どんな場を持ちたいと考えていますか?
川中:僕も同じように、美作大学で起こったような場がもてたらいいなぁと思っています。名前はともかくとしても、「ソーシャルイノベーション・アカデミー」みたいな、社会のこと自分がどうつながっているかを学んで、「よし、じゃあ自分と社会のつながりをこう動かして変えていこう」というようなことを構想して、実際にカタチにしてみる。そんな学びと実践の場ですね。また、実際に動き出すときに「独り」じゃ気持ちが折れてしまうこともあるから、励まし合ったり、支えあったりするようなコミュニティがその場でつくれたらとも思っています。アカデミーといっても、普通の学校ではないので、「入学」「卒業」みたいな枠はなくてよくて、関わりかたも色々でよくてと思っています。ふらっと立ち寄って帰ることもできるし、逆にどっぷりつかっていくもよし、みたいな空間ができたらいいなぁと。先々には、そんな学校「みたいな」ものがつくっていけたらいいなぁ、と思っていますね。いやぁ、今日はいつもよりもしっかりと語りましたね。語る中で整理されることもありました。ぱーちゃん、ありがとう!
鈴木:こちらこそ、ありがとうございました!

《おわり》

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次回は、教育ファシリテーター講座ゲスト
小林建司さんと三浦一郎さんの対談です。

お楽しみに!