vol.5 小林健司さん・三浦一郎さん(1)


こんにちは。
シチズンシップ共育企画・鈴木です。

時間の流れは早いもので、教育ファシリテーター講座からすでに1ヶ月!が経ちました。
ゲストインタビュー、次の組み合わせは小林健司さんと三浦一郎さんです。

学校と企業をつなぐ、言わば間接的な場作りに関わる小林さん。
「本音」のぶつかりを大切にする三浦さん。
それぞれのキャラクターが色濃く出た対談です。
お楽しみください!



普段のお二人の活動・お仕事は?



鈴木:今日はよろしくお願いします。ではまず、お二人が普段どんなことをされているか、からお話いただけますか?
三浦:普段は兵庫教育大学で大学院生をしています。学校以外では、シチズンシップ共育企画の運営委員をしたり、別の分野だったら野外での冒険教育のインストラクターをしています。
鈴木:以前から聞きたかったので、冒険教育のインストラクターについて、詳しく教えてもらえますか?
三浦:5年前日本アウトワードバウンドスクール(http://www.obs-japan.org/)で2ヶ月の冒険教育の指導者養成のトレーニングを受けました。今は同じく冒険教育を専門としているアウトドアエデュケーションセンター(OEC)(http://www.o-ec.co.jp/)というところで、非常勤のインストラクターをしています。
鈴木:インストラクターの仕事は、頻繁にされるんでしょうか。
三浦:時期によるけど、新入社員研修の集中する4月の時期は約1ヶ月間行ったりしますね。夏は子供向けのプログラムで兵庫縦断、丹後半島一周キャンプなどを担当しています。
鈴木:すると今、一郎さんが持っているファシリテーションの「現場」というと野外教育の場になるんでしょうか。
三浦:今は教育大学の学生で学校現場に近いから、「どうやって学校教育と参加型の学びと折り合いをつけてやっていくか」に意識が向いているけど、「現場」という意味では野外教育かな。
鈴木:健司さんは、普段どういうことをされているんですか?
小林:NPO法人JAE[日本教育開発協会](http://www.jae.or.jp/)で働いています。将来や仕事について学ぶ教育プログラムを、学校や地域、企業など、いろんな場所でやっています。
鈴木:その中で特に健司さんは、どんな役割を担っているんですか?
小林:僕は教育プログラムの設計をしたり、ニーズを把握したりするような仕事をしていますね。うちの場合は企業からお金を頂いて事業化しているので、企業・学校双方のニーズに見合ったマッチングをしていたりしています。
三浦:企業側からすると、社会貢献的な意味があったり、社員研修的な意味があったりするのかな。
小林:そうですね。多くの人にとって「自分の仕事が何たるか」とか「自分の会社そのもの」について説明する機会は多くありません。そういった意味で社員の方が自分の仕事について見つめ直したりする機会にもなっています。
鈴木:学校の生徒に向けた授業の進行などはしないんですか?
小林:授業は社員さんか先生がなされるので、僕らが中心になってすることはほとんどありません。
三浦:どうして?
小林:必要があれば入ることはあります。でも学校の先生が一番クラスの流れとかを把握しているし、生徒との関係性も深い。僕らが入っていくよりもファシリテイティブにできることは多いと思うんです。いわゆる学習意欲の高い人が集まったりするような場とは少し違うし、1年単位で関わり続けるという点では、数日で終わるワークショップのファシリテーションとは少し違っている気がします。
鈴木:JAEさんの授業が終わった後も先生と生徒の関係は続くわけですよね。そこを考慮したうえで先生や生徒とも関わると。
小林:そうですね。だから僕らだけで進行するのではなく、先生方にも行ってもらうのです。
鈴木:確かに、ちょっとだけ顔を出して後はさよなら、っていうのもあまりよくないですね。
小林:そう。僕たちが入った授業を先生がその後どう活かしていくのか、とかね。これは今向き合っている課題でもあるんですが。
川中:一つ気になるのは、先生が普段からオープンだったら、子ども達もその場を違和感なく受け取れると思う。でも普段は「俺に従え」みたいな先生がいきなりファシリテイティブに振舞ったりすると、違和感が出るのでは?と思うんです。生徒がうまくその関係性に乗れなかった場合、しんどくなってしまうこともあるのでは、と思うんだけど。
小林:その場合、社員さんがその関係性を崩していく役割ですね。あとは僕らがアイスブレイク的な役割を担ったりする中で、生徒の「あ、今回はこういう感じの授業なんだなぁ」という切替えをしていく工夫はしています。
川中:その辺はきちっと規範をつくるわけですね。
小林:そうですね。あとは、「この時間は企画シートやポスターができている状態まで」という目標だけ伝えておいて、あとは先生が自由にやってください、というやりかたを取っています。
鈴木:そこは先生に任せるんですね。
小林:そうですねー。やはり、僕たちがずっと毎回行くのは難しい。それに、先生がホームルームや自分の授業の時間を使ったりすることもあります。だから「今回は仕事について考えてほしい」というような大まかな目的意識は共有しておいて、先生にお任せしているんです。先生のほうが授業においてはプロなんで。



学校と企業をつなぐ際に求められること



三浦:ここまで聞いていて、今のような「間接的な場作り」においてどういうことを大切にしているかが気になるんですが。
小林:「学校としてはこれをして欲しい」「企業としては こういうことがしたい」「JAEとしてはこれは達成したい」というそれぞれのニーズをお互いに認識して、それらが達成さるかどうかが、最終的な満足に関わってくる。なので、「あいつらだけが勝手にやっただけじゃないか」と思ってしまわないように、それぞれのニーズを事前に把握するということでしょうか。
鈴木:なるほど。今のお話につながるエピソードって、何かありますか?
小林:一番最初に担当した授業がそうかなぁ。当時担当されていた先生は力のある方で、「最初にこれを見せて、途中でこう盛り上がって…」みたいな授業の全体イメージがすべて描けていたんです。でも、一方の企業側からしたら用意した道具とか教材を「せっかくだからこれも見せたいし、あれも見せたいし…」となってしまう。予定では初回に終わるはずだった教材を、2回目の授業でまた使う、みたいなことがありました。僕としては、良かれと思ってやっているからいいと思いましたが、限られた時間の中である程度のことをやろうとすると、先生の言うことももっともでしたね。でも先生からしたら「それは初回で終わったんだから、今は考えることに集中させてくれ」と。あのときは本当にどうしていいかわからず、今でも学校や企業に対して、何よりそのときの生徒さんたちに申し訳ないことをしたな、と思っています。
三浦:そういう経験を、今になって健ちゃん自身はどう捉えているんでしょう? ぜひ聞きたい。



小林健司さん)


小林:やっぱり3者それぞれに言い分があるわけで、それを結局僕が聞いて、ショックを吸収する素材みたいになってしまっていた。3者の間でそれぞれの達成したいことを共有していれば、と思いますね。
鈴木:間に一枚入ってしまったから伝わりにくかったのではないかと。
小林:そうだね。あんまりお互いの求めていることまで突っ込んで話ができたというよりは、こういう授業ができたらいいよね、というイメージの統一くらいしかできていなかった。
川中:プログラムは共有しているけど、ゴールの共有は曖昧だった、という感じかな。
三浦:異質なもの同士が関わるとき、「クッションとして入るほうがうまくいく」というほうが一般的なイメージだと思うんだけど、「クッションになってしまったからうまくいかない」というのは、どういうことでしょう?
小林:さっきの例だと、JAEがいなかったら実現しなかったという意味では「出会いのきっかけをつくる人」なんです。そして出会った後、それをいいものにしようと思ったときに、衝撃を吸収して調整してしまってはだめなんですよね。
川中:きちんとぶつかる必要がある、と。
小林:そうですね。例えば、その時と同じ企業と一緒に、別の学校で今年授業をやったんですが、めちゃめちゃうまくいったんです。「またお願いします」という声が上がったくらいで。
鈴木:何か工夫されたんですか?
小林:まず、先生の方で事前に授業の目的を共有してもらいました。「今回の目的は何ですか?」というテーマでフリップを書いてもらって、「私はこういう目的でやりたい」というものを先生の間で共有していただき、「ここ共通しますね」みたいな話をしたりしました。社員さんの方でも「自分たちの会社とはこういうもので、この商品がそれを象徴している」みたいな話をしてもらったりしました。すると「うちとしてはこれが伝わればいい」というのがはっきりするんです。ですが、「学校としてはそこまで大きなことは求めていない。単純に仕事について考えてくれたらいい。欲を言えば、その学びが勉強につながれば…」というようなことが学校から返ってくることもある。これが伝わるだけでぜんぜん違う。
鈴木:そのように先生の意見を整理したり、社員さんが整理したり、それを組み合わせたりする中で、「この場面が特に大事!」というポイントはどこにあるんでしょう?
小林:それぞれの意見を出会わせるときに、温度感が伝わらなかったという失敗はあります。学校側でせっかく紙をつかったりして出し合った意見を、僕がパソコンを使って資料にまとめてしまったりすると、ぜんぜんその温度感が伝わらないんですね。
川中:なるほど、生の言葉をパソコンの言葉に変えてしまうと温度感が伝わらないのかぁ。
三浦:では、先生も社員さんも全員が、面と向かって意見を出す機会が必要、ということ?
小林:それは時間的に難しいので、書いたフリップをそのまま次の会議に持っていくんです。(笑)
鈴木:なるほど!
三浦:おもしろい!テクニカルだけど、本質的。
小林:フリップを持って行くことで文字の大きさとか、色とか…
川中:空気感が伝わるね。
鈴木:やっぱりフリップの力って大きいんでしょうか。
小林:大きいと思う。人によっては絵とかを入れたりするから、余計に文字に起こしてしまうと落としてしまう情報が多くて。

三浦:クッションの役割を果たしていたところからガチンコで2者をぶつけていくようになる中で、場の臨み方がどう変化したのかをぜひ聞きたいなぁ。
小林:その変化はあるかもしれません。こちらから企業さんに対して、あえて若手の人を使って研修の一環としてやりましょうと提案したりしていますが、僕たちから直接言いにくいケースもありますからね。
川中:今の話を踏まえると、JAEで健ちゃんが担っているのは、「コミュニケーションの回路をデザインし続けている」というイメージじゃないかな。事前にこうしたらうまくいくと決めつけた場の臨み方を持っているというよりも、企業の話と学校の話を「こういうふうにしたらうまくつながるし、こうしたらうまくつながらない」という試行錯誤をうまくやっているという感じかな。
小林:そうかもしれません。そこにキャスティングも関係してきますね。この企業に対してはこの先生は合うだろうな、とかその逆とかも考慮したりします。
三浦:それって、うまくいかないだろうなという組み合わせの場合は、おかしな話だけど「出会わせない」ということ?
小林:授業をする、という意味では出会わせないですね。
三浦:なんでもガチンコで出会えばいい、というものでもないのかな?
小林:うーん。出会わせないというのも変ですけど、この学校ではなく他の学校でやったほうが幸せかもしれないという感じですかね。1年のうちそう何回も機会があるわけではないので、限られた時間の中で、いい出会いをどうつくるかはすごく課題だと思っています。
川中:まさにコーディネートですね。


「ちがい」が生み出すおもしろさ


鈴木:話は変わるんですが、一郎さんの質問に「本音」とか「本気」といったキーワードが多く出てきたように思うんです。一郎さんがファシリテーションはもちろん普段の人との関わり方の中で大切にしているものが「本音」といった言葉なのかと思ったんですが、どうなんでしょうか。
三浦:確かにそう言われると私が普段お世話になっているOECの「本気」「本音」「本物」という教育コンセプトに多大な影響を受けているような気がします。。ただ僕はいつでも本気なのかと問われればそうでないときもあります…(苦笑)ただし「本音」という部分にこだわりはあるかな。
鈴木:「本音」のどういった部分にこだわりが?
三浦:だって本音じゃないと気持ち悪くないですか?(笑)
鈴木:確かに、本音を隠されてコミュニケーションしている、というのが伝わってしまうと気持ちが悪い、という感覚はありますが・・・。
三浦:僕は、本音であればあるほど人と違っていくから面白いと思う。違いが際立つ。
川中:おおー、なるほど。それ面白いね。
鈴木:本音を隠してしまうと、違いが見えない。
三浦:さっきの健ちゃんの例だったら、クッションがあると先生と社員さんの違いが際立ちにくくなる。それが関わり方を変えると、ガチンコになってそれぞれの思いの違いが際立ったからこそ逆にうまくいくみたいな話が、おもしろい。
小林:本音であるほど違いが際立つ、というのはおもしろいですね。
三浦:例えば会議のときも、本音でぶつかると「ざらつく」やん。明らかにイラっとした顔している人がいたり、すごく気になる。そういうこと自体がコミュニケーションの回路の入り口になると思う。
鈴木:ざらつく、と言うと?
三浦:自分の思い通りにならなかったり、機嫌悪くなったり、腹立てたり、相手の様子に反応するじゃない?プライベートで恐縮だけど、結婚してからはしょっちゅう互いに「ざらついて」います(笑)。でもだからこそ、毎日が新鮮だと感じる。毎日出会っているような感じがします。



三浦一郎さん)


小林:一郎さんの中で、そういった違いが際立つことでそれぞれが光っていくことを発見した瞬間などはあったんですか?これまでに経験したキャンプであるとか…
三浦:色んな場面があったけど、小さいころのことだと、クラスに何人か変わった子っていなかった?そういう子に当時からめっちゃ惹かれていて。ちょっと周囲から浮いてた子とか、相手にされなかったり子とか。でもその子がどうして周りと違うのか、に僕にはとても興味があった。
小林:でもそれは、10人が10人、そうは捉えないかもしれないですね。
三浦:どういう風に捉えるの?
小林:あーなんか変やなぁ、自分と違うなぁ、と。
川中:楽しむというよりは、距離を置くというか。
鈴木:違いには気づくけど、そこに積極的に関心がいかなかったりします。
三浦:僕はそんなとき、今ここで起こっている、この関心の差は何なのか、っていうのを考えるのが好きやねん。
川中:学生時代一緒に活動していたBrainHumanity(http://www.brainhumanity.or.jp/)に一郎が入ってきたとき、「質問する力が強い」という部分でぐっと彼に注目が集まったことがあったわけ。皆だったらスルーしてしまうところに対して質問する。「人間」に対する関心が強いなと。言っていることがらについての質問ではなく、なぜ「その人が」そういうことを言うのか?という部分に質問することが多くて。そういう質問は核心をつくことが多い。一郎のファシリのらしさはそこだと思っていて。質問するときのセンスは面白いことが多いね。
三浦:ファシリテーションとかって、その人の人間観とか、それまでの人生観とかが現れる。だから興味があるね。
鈴木:人に対する好奇心が強い、という気がしますね。

三浦:中高6年間寮生活で、思春期の頃に人と一緒に住まざるを得ない環境だったから、けんかもいじめもあった。「何でお前そういうことすんねん」というのを理解しようと思うと、その人の生い立ちとかをたどっていかないと、表面的に分かっていることだけでは腑に落ちなかったり納得いかなかったりする。その人が影響を受けた人とか、本とか、親とかをたどっていかざるを得ないんだよね。
鈴木:「なんでやねん!」となった時、それを追求していくか、手を引いてしまうのかが分かれ道だと思いますね。僕も今まであきらめてしまう場面が多かったので…。
川中:「もういいや」と思って他の人と仲良くなって、その人を意識しないことも不可能ではない。「しんどい」から関わらずに、楽をしたいと思う人も多いと思うんだよね。
三浦:そこに居るのに居ないことにしてたら、逆に「しんどく」感じます。
小林:それはやっぱり一郎さんの資質、という感じがしますね。どれだけ違いを楽しめるかって、相手を理解しようとするエネルギーを燃やし続けられるかどうか、という部分に現れる気がする。どうしても、もうこれくらいの距離を取ろう、みたいなものを見出しますもん。
三浦:そのまま何もせずいたらそう思うかもしれないけど、色々聞いてみると「えーっ!そんな過去持ってたん?」みたいに自分の中で相手の「キャラが立ってくる」やん。「オレ、こんないっぱいのキャラに囲まれてる!」みたいな。
小林:すごいなぁ。(笑)
鈴木:はぁ、なるほど!
川中:ライフヒストリーにすごく関心を持つよね。人の歴史とか、出会いのきっかけとか。
小林:その人の、動機もそうですよね。
川中:だとすると、自分自身を形作っているものとか歴史にも関心があるのかな?
三浦:もちろん、ありますよ。
川中:なんでそう思うようになったの?
三浦:それはわからへんなぁ。
小林:そこはわからないんだ。(笑)逆にそこがすごく気になりますよ、僕らにとっては!

(Vol.2へ続く)